わんぱく宣言2008/全国こども作文・スピーチコンテスト 公式ホームページ
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わんぱく宣言 2008 テーマ「ありがとう」
優秀賞
(小学生高学年の部)
M渦 天徳 (はまうずたかのり)
東京都/私立 成蹊小学校 5年
『本当の美しい言葉』
 

スピーチを聴く


 全く油断していたのだ。普通で、ぼくが母さんに負けるはずがない。第一、母さんは、「銀」を動かそうとするたびに
「これは前へ行けるがやったかねぇ。」
と聞いてくるほどだし、差す番になっても、ずっと考え込んでなかなか駒を動かさない。ぼくはその間、待つのが退屈になって、それで、本を読んだり新聞を見たりしていたのだ。
それがいきなり「王手」ときた。びっくりしてよく見たら、ぼくの「王」はもう詰んでいた。めちゃくちゃ腹が立ってきた。顔も頭も熱くなった。ぼくは母さんに負けたことはない。
  詰め将棋問題集を見ながら一人で差していたけれど、やはり相手がいた方が面白い。そこで、いやがる母さんのきげんを取って、やっと将棋盤の前に座らせた。ぼくの楽勝だと思っていた。それなのに、これはどういうことや。しかも母さんは、どこかの和尚の様に偉そうな言い方で、
「最大の敵は、うぬぼれじゃ。」
とか言う。投了なんかできるか。悔しさで涙が出そうなのをやっとこらえて、ぼくは勝った人が言う言葉をつっけんどんに言った。
「ありがとうございましたっ!」
ぼくはさっと二階の自分の部屋へ走った。後ろで母さんの
「こりゃ。終わったら片付けんかよ。」
という声が聞こえたが、それどころじゃなかった。頭から布団にもぐり込んだとたんに涙がふき出てきた。しばらく泣いていたが、だんだん暑苦しくなってきたので、布団からはい出た。スーッとした空気がやっと吸えた。頭も冷えた。心も落ち着いた。そのうち少し腹も減ったので居間へ降りて行った。将棋盤は片付けられていた。母さんはテレビを見ていた。消費期限や産地を偽装していたのがバレた店の人の記者会見だそうだ。
「あのオバちゃんの謝罪が偽物や。」
と母さんは言った。ぼくも怪しいと思った。
  あの時のぼくのつっけんどんな「ありがとうございました」は偽物だった。負けた事実や気持ちをごまかそうとしていた。偽の「ありがとう」は態度や心で相手も自分も裏切っている。「ありがとう」は一番美しい言葉といわれているのにとても失礼だった。
  今のぼくはもう、本当の「ありがとう」が、美しい言葉にふさわしい気持ちを込めた「ありがとう」が、ちゃんと言えるようになっている。それと、投了の「参りました」も…。

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